[個人山行]甲斐駒ヶ岳/鋸岳周回 -岩と紅葉-


2017/09/29-10/01
鋸岳縦走路-鹿窓

甲斐駒山頂より鋸岳方面(奥に北ア)
甲斐駒は自分がtwvで初めて企画を出した思い出の山であり、白く輝く鋭角的な山容も相まって、個人的には日本で二番目に好きな山である(一番は劔岳)。初企画の際は黒戸尾根を登って北沢峠に降りたのだが、実は当時から気になっていたルートがあった。それが日向八丁尾根である。この尾根は黒戸尾根の一本北の尾根にあたり、七丈小屋の先代ご主人が()整備したというルートである。はるか昔には信仰登山の道であったらしいが、樹林帯中心の長距離ルートであるためか、再整備された現在でも歩く人は少ないようだ。登りに黒戸尾根、下りに日向八丁を使えば、ちょうど尾白川渓谷から一周できる。
ラッキーなことに金曜が全休、紅葉のピークと3日間の好天予報と見事な条件に恵まれたため、上記周回ルートに鋸岳の往復を加えた二泊三日で行くことにした。果たして天気も紅葉も上々、今までで五指に入る素晴らしい登山となった。
             前書きが長くなった。ここで、(おそらく)twv初トレースになるだろう、日向八丁尾根と、甲斐駒-鋸稜線についてザックリまとめておこう。以降の参考になれば幸いである。ルートの詳細は下の行動記録を参照のこと。

・八丁尾根コース
             人通りの少ない、きわめて快適な尾根である。岩稜あり、苔むす巨岩体あり、足首丈の笹の林床ありと、どう考えてもワンゲル好み。ただし大岩山直下の登りは比較的危険なので、大人数や初心者を引き連れての突入、雨天時はお勧めできない。途中の鞍掛山展望台には是が非でも寄るべし。秋企画向けか?

・甲斐駒-鋸岳
              途中までは八丁尾根コースと共通。鋸岳のメインピークは、第一高点と第二高点があるが、第二高点までは普通に行ける。眺望良好。他方、第二高点-第一高点間(俗にいう核心部)は不安定なザレ沢の下り、20m近い鎖場の登り、8mぐらいの岩壁の登下降(鎖あり)と、歩行難易度が高く、RFも要求される。ここを行く場合、maxでも4人、それも比較的岩場慣れした&ウォール参加歴のある上級生のみでだろう。小さな落石は確実に発生するので、ヘルメット必須。チェストハーネスも使えるとなおよい(なくても行けるとは思う)。天然の岩トンネルをくぐる機会はそうそうないと思うので、行けば楽しいのは間違いない。最後に核心部の概念図を乗せておく。

鋸岳核心部概念図(上が北、第二高点-第一高点間)

以下行動記録。

2017/09/29()
長坂駅00:30=0200尾白川渓谷駐車場(仮眠)0520-0730笹平分岐-0920刀利天狗-1100七丈小屋1120-1215八合目-1320甲斐駒ヶ岳1350-1520六合目石室(-1553水汲み終了)
 
              木曜の20時ごろに家を出る。終電の一本前に乗ったつもりだったが、東京駅での移動にもたついてしまったため、高尾駅で40分の乗り換え待ち。さすがに平日のこの時間は電車がすいている。長坂駅には00:30着。コンビニで買い足して、いざ自転車で登山口へ。深夜の田舎道ははじめ怖かったが、比較的すぐに慣れた。途中タヌキとキツネを見かけた。自転車は車と違って静かだから直前まで逃げないのだろう。月明かりに浮かぶ甲斐駒のシルエットが美しい。道が登りだしてからはペースが上がらず、結局登山口まで二時間近くかかってしまった。
              初日の行程は長いので、なるべく早くに出たい。4時起床5時半出発。歩き出すがやはり寝不足感は否めない。道の上には栗やクルミがたくさん落ちていて、収穫の秋だなあと思いつつ、意識してゆっくり歩く。二年前にタルミをとった場所などは案外覚えているもので、懐かしい。下のほうは木々が青々としていたが、刃渡り周辺から木々に色が差し始め、5合目以降から本格的に錦秋の様相。栂の緑と織り混ぜられて、歩いていて見飽きない。
              七丈小屋の時点で、おおむね予定通りに進んでいたので、そのまま甲斐駒を越えてしまうことにする。だいぶ疲れてきていたので、テコ入れにカップ焼きそばをいただき、ついでに小屋のご主人に六合小屋の水などの情報をもらう。
              ここにきてなまった体が荷物に負けてくる。エアリア等倍がやっとというペースだ。景色や錦を見つつゆっくり進む。八合目の来迎場から見上げる甲斐駒は黄金を身にまとっている。鉄剣の横を過ぎ、何とか14時前に山頂についた。雲一つない。素晴らしい景色だ。仙丈のカールもうっすら赤く見える。インスタントコーヒーを沸かしてしばし休憩。

黒戸尾根八合目より
        ひとしきり写真などとって、ここからは未知の区間である。甲斐駒山頂から北に延びる尾根を下り、六合石室に向かう。正面に遮るものはなく、右に八ヶ岳や甲斐駒山腹の紅葉、正面に鋸岳を望む気持ちの良い尾根だ。岩に張り付く赤い葉がかわいらしい。ただし、各所に現れる岩峰を右へ左へと巻くため、RF箇所は多い。岩にペンキやケルンがあったり、赤布があったりするが比較的まばら。岩場の間に白砂のザレ場があるが、これを岩場の巻のルートと勘違いして迷いこんでしまった。幸い15mほど下った時点で間違いに気が付き、登り返した。この辺は、角度云々というより、下り過ぎないで様子を見るといった慎重さが要求される(下りすぎるとおそらく岩壁の上に飛び出してしまうため)。また途中で岩場のトラバースと下降があったが、いずれも短く、しっかりした鎖も張られていて危険はない。最後のほうは本当に疲れていて、まだ着かないのか、とか考えていた気がする。
やっとのことで着いた六合石室は、屋根あり床あり土間ありで快適。本日の宿泊者は自分のみのようだ。土間は45天二張が余裕。床の上は詰めて10人ほど。小屋からすぐ北に行った砂礫地がテント場であり、ここも広い。水場はテント場の砂礫地から赤布を目印に5~10分ほど下る。たまに枯れることもあるそうだが、今回は普通に出ていた。甲斐駒西面が美しい。
夕飯は米とキムチ鍋。米は普通に炊いて、キムチ鍋はフリーズドライのものに野菜とベーコンを追加した。体にしみる。もうこの時点でだいぶ眠い。夕日を見ようかとも思ったが、ガスが沸いて牛乳を溶かしたようになっている。これでは見えまい。寝不足と高度によると思しき頭痛があったこと、石室の中は薄暗かったことも手伝って、日没前に寝てしまった。こんなに疲れたのは久々である。


2017/09/30()
六合石室0715-0748三ツ頭-0850早ノ川乗越-0915第二高点-0935鹿窓ルンゼ下-0948鹿窓上-1025第一高点1045-1115鹿窓-1155第二高点-1220早ノ川乗越-1305三ツ頭-1345六合石室

              快適な夜だった。朝5時ごろに目が覚めると、昨夜の頭痛が消えている。この日の行程は長く見積もっても8時間なので、ゆっくり休んでから出発することにする。朝の時点では高曇り。鋸岳や仙丈ケ岳、遠く北アの山々に朝日が当たるのを眺めて、朝食を食べて、コーヒー飲んで、等々だらけていたら、あっという間に7時になってしまった。出発。
まずは六合石室を出て北進、第二高点手前のコル(早ノ川乗越)まで行く。日向八丁方面との分岐(三ツ頭)には立派な道標が立っていた。踏み跡は明瞭だが、たまに旧道(今は廃道の巻道)跡が出てきたり、道が崖際を通っていたりする。早ノ川乗越手前でヘルメットとチェストハーネス装着。早ノ川乗越から第二高点までは、岩稜に挟まれたガレ場を登る。踏み後明瞭で全く問題なし。第二高点だけだったら、落石対策のヘルメットだけで十分。第二高点からは甲斐駒方面、目指す第一高点方面など、360度の展望。遠く妙高のあたりまで見えている。
さて、ここからが鋸岳の核心部である。まずは第二高点頂上のごくわずか手前から、南西尾根方向の踏み跡を下る。下り始めは岩に(かすれかけだが)ペンキあり、赤布豊富。しばらく下ると大ギャップからのガレ沢の左岸側に道が続く。そしてガレ沢の対岸下流にある登山道に向けてガレ沢を慎重に下る。斜度がきつく浮石も多いので、足元が崩れるなどして落ち始めたらなかなか止まらないだろう。あとの鎖場などを含めても、実はここの下りが一番怖かった。対岸の登山道は岩のバンドについている。結構狭い。これを通過すると鹿窓のルンゼである。鹿窓のルンゼは、はじめクライマーズレフトにある草付きの九十九折を登り、途中から鎖をつかんでの岩壁登りとなる。右手のくぼみ(ルンゼの一番えぐれた部分)が手掛かり豊富に見えるが、そこは落石が転がってくる可能性も高いので、あまり近づきたくない。今回は鎖にプルージックをかけて簡易的なバックアップとしたうえで、片手は鎖、片手は岩にという体勢で登った。途中鎖の中間支点の通過あり。チェストハーネスが無くても十分行ける距離(=握力がなくなるほど長くはない)とは思うが、保険をかけて損はしないだろう。最後は鹿穴と呼ばれる天然のトンネルをくぐって山梨側に出る。少し山梨側を進むとすぐに岩のリッジを乗り越し、小ギャップの下降となる。ここも鎖あり。はじめ半分ぐらいは急な草付きの踏み跡をたどり、途中から鎖使用。ここはおとなしくゴボウで下った。小ギャップの底に立つとすぐに岩壁の登り返し。やはり鎖が垂れていて危険はないが、一部手前に飛び出している岩があるので、ちょっとやりづらいかも。ここも鹿窓と同じ方法でクリア。最後は伊那谷側がすっぱり切れた稜線を歩いて山頂に立った。独占。見事な展望である。鹿窓方面の岩峰群が力強い。気分を落ち着ける意味も含めて、少し長めに休んだ。
第二高点から見る第一高点。
近くに見えるが、一度左手に降りて登り返すので時間がかかる。

帰りは往路を戻る。鹿窓を下る前に、登っている人がいないか声をかけたのだが、なぜか第一高点方面にいた後続の人から返事が返ってくる(岩に声が反射したらしい)という珍事もあった。鹿窓の下りは小規模落石(おおよそ親指大の小石が5~6個ほど)を誘発してしまった。自分が鎖を動かしてしまうことで、上部の鎖が小石を掻き落としてしまうようだ。ヘルメットは大事。それ以外は往路より簡単で、無事に第二高点まで戻ってほっと一息。このころには雲はすっかり消え、昨日と同様の大展望。さっと六合小屋まで戻る。さすがに土曜日は人が増えると見える。道中3人パーティーとすれ違い、また小屋には7人ぐらいのツアー客も来ていた。翌日は鋸を縦走していくそうな。重い荷物を持ったままあの鎖場を通過するのか。。。
今晩こそはガスらなさそうだし、ツアー客と同じ小屋で泊まるのも鬱陶しいしで、この晩はツェルト泊とする。甲斐駒の山頂から月が出てきたり、夕焼けに燃える姿が見えたりと、ツェルト泊にして大正解であった(小屋の前からは甲斐駒方面の展望はよくない)
余談だが、米を炊く前に水につけて30分ほど放置しておいたところ、非常においしく炊けた。ワンゲルでも、早めに到着したときはやってみてはどうか。芯米の発生率を限りなく小さくでき、炊く時間の短縮にもなるはずだ。持ってきた白州のウイスキーを片手に、夕日を見ながらの宴会。夜は月明かりで明るかった。気温は氷点下になったらしく、ツェルトの結露が凍っていた。
六合石室から。至福。

2017/10/01(日)

六合石室0525-0550三ツ頭-0605烏帽子岳-0745大岩山直下-0835大岩山-0920鞍掛山分岐-0945鞍掛山展望台-1010鞍掛山分岐-1140日向山-1255尾白川渓谷駐車場1330=1340尾白の湯1440-1600韮崎駅

あっという間に下山の日になってしまった。朝は日の出少し前に出発。昨日も通った分岐から烏帽子岳方面に進む。烏帽子岳周辺は気持ちの良い岩稜。ちょっと飛ばしていったので、まだ朝日に赤みが残る間に烏帽子岳についた。昨日、おとといと歩いた稜線、これから向かう稜線、市街地、全部見える。烏帽子岳以降はエアリアに記載のないルートになるが、踏み後明瞭、赤布ベタ打ちで迷うことはない。基本的に栂の樹林帯だが、人があまり通っていないせいか、地面はふかふかとして柔らかく、歩いて楽しい。途中、苔むした大岩がゴロゴロしている場所もあった。
日向八丁の最大の難所は大岩山直下の急登である。急斜面に梯子、鎖、ケーブルの連続で、きつい区間は標高差にして80mほどだが、間を十分に開けて通すべきだ。当然落ちたらケガでは済まない。しかしそこさえ越えればひたすらなだらかな下りである。快調に飛ばす。途中カラマツ林に背の低い笹の林床、という区間があって、非常に気持ちよかった。踏み跡はあるが比較的細いので、あたかも薮の草原のような感覚だ。
途中鞍掛山の展望台に空身で立ちよった。エアリアによれば片道40分かかるそうだが、甲斐駒岳の展望絶佳とまで言われたら行くしか無かろう。確かに黒戸尾根から甲斐駒本峰、鋸岳方面に至るまで大パノラマが広がる。絶景かな。
鞍掛山展望台より。甲斐駒本峰から右手に延びるのが日向八丁尾根(右奥に鋸岳)
     その後もピョコをいくつか越えていき、最後に白砂の斜面を登り切って日向山に出た。今山行最終ピークである。近くまで林道が通っていることもあってかものすごい人であった(多分山頂近辺に20~30人はいた)。展望はもちろんいいが、一気に俗世に戻ってきた感がある。ここからは広葉樹の下をひたすら下って、駒ケ岳神社の前に戻ってきた。無事一周完遂。
しばし休憩したり、駐車場整理のおっちゃんと話をしたりしてから出発。チャリである。明らかに来がけより荷が軽く、また下り坂なので漕がずともぐんぐん進む。途中尾白の湯に入り(ロードバイクで来ていた人に、その荷物でチャリ?!”とつっこまれた)、釜無川沿いを韮崎まで自転車で下った。韮崎まで、といったのは、釜無川の河岸段丘を自転車で登りたくはなかったためである。道中富士山がずっと正面に見えていた。
そしてなんと韮崎からは村田車に乗せてもらえた(!) 彼は別荘からの帰りだったらしい。なんとも絶妙なタイミングで、しかも車の運転まで少しさせてもらえるとは。感謝感激雨あられである。本当に頭が上がりませぬ。

記:川原

 
 

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