飛騨の谷2本の遡行記録

御嶽山兵衛谷~シン谷と高原川沢上谷の記録。(文責:長谷川)


◎御嶽山・飛騨川水系兵衛谷~シン谷遡行記録
◯メンバー: 4白濱、L長谷川
◯入山期間: 2008年7月29日~8月1日
◯1/25000地形図:「湯屋」「飛騨小坂」「胡桃島」「御嶽山」
遡行図は白山書房「日本の渓谷'98'99」を参照

7月28日(月)東海北陸地方では日中荒れ模様の天候
岐阜駅20時10分発普通高山行きの列車に乗り込む。昼日中なら、高山本線の車窓からは飛騨川の流れがつくる飛水峡と金山七里のダイナミックな景観が楽しめるはずだが、今回は闇の中で見えない。22時30分過ぎに飛騨小坂駅に着き、事前に予約してあった鳩タクシーに乗り込む。運転手さんによると飛騨小坂周辺では昨日久しぶりに雨が降ったが、今日は朝に一時的に降っただけで、河川の水量は少ないだろうとのこと。水量が多いと苦戦が予想される谷であるだけに、少しほっとする。しかし美濃白川周辺と飛騨北部では大雨で高山本線が止まったらしい。
飛騨小坂駅から15分ほどで巖立峡に着く。タクシー代は中型1台で3520円。今晩は巖立公園の建物(トイレ、水道あり)のひさしの下で寝る。巖立公園では携帯が通じる。寝ている最中はヤブカがうるさかった。
7月29日(火)晴
5:10(巖立峡)-6:20(3mヒョングリ)-6:40(タルミ)6:55-8:25(根尾滝への遊歩道橋の下・タルミ)8:45-10:00(二条3mの通過)10:20-10:40(曲滝下)-11:00(ゴルジュ入口・タルミ)11:10-11:40(二条3m20mスクリーン滝下・タルミ)12:00-13:55(出口の無い滝)-14:10取水堰堤▲1
巖立は御嶽山から流れた溶岩流が止まってところで、御嶽山の西側斜面を深く刻み込む椹谷と濁河川に挟まれ切り立った岩塊である。駐車場から椹谷に下りる道をたどり渓床に出て、濁河川との出合まで下る。出合付近はゴーロだが、すぐに柱状節理の岩壁に囲まれた瀞が出てきて、泳ぐ羽目になる。ここは流れも弱く難なく通過できる。この先ゴーロ歩きと、深く水をたたえた瀞が交互に現れる。大体の瀞は泳いで越える。周りは下層がコケに覆われたヒノキ科の原生林で鬱蒼としている。左右の岸から水が滴り落ちている箇所も多くあり、森林やコケと相まって幽谷の雰囲気を醸し出している。
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瀞でのへつり
二段5m手前に大きな釜を持った小滝(落差は1m程度)があり、右岸に沿って泳ぎ、流れに取り付く。流れがもろに体に当たり、結構苦労する。一見すると左岸側を行けそうなのだが、ハングした岩をトラバラなければならず、難しそう。自分は左岸側を見て諦めて戻る際に滑落。二段5mは右岸側のバンド沿いに進むが、滝の上をへつるときにバランス感覚が要求される。もし失敗すると水流中に落ち流されてしまうという恐怖感からなかなか一歩を踏み出せずにいたが、岩陰に残置ハーケンを見つけそれにスリングを通して手がかりとして通過する。白濱は水流沿いに進み苦労したみたいだった。
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二段5m全景
二段5m上は大きな瀞となっており、その先に小滝がある。水流がなさそうに見えたので、瀞を泳ぎ小滝を越えようとしたのだが、微妙な水の流れにより途中から泳いでも泳いでも進めないという状態に陥った。更に悪いことに、浮力によりザックが持ち上げられ頭の上に覆いかぶさってしまい、顔を水面上に上げようとしてもザックが邪魔してままならならず、口に水が入ってくる。このときはさすがに溺れるのではないかと少しあせった。ザックの腰ベルトを外して泳いでいたのがよくなかった。泳ぐときは、腰ベルトは外さない方がよい。白濱はこの瀞を途中までへつり、その後右側の岸に上がり、大岩を乗越して通過。自分も結局それを追う。
その後はしばらくゴーロ歩きが続き、駐車場から根尾滝まで続く遊歩道の橋の下をくぐると、まもなく濁河川と兵衛谷との出合に出る。自分たちは右側の兵衛谷へとルートを取る。この辺りで白濱がメジロアブを発見。メジロアブなんて日本海側河川の豪雪地帯にしかいないと思っていたのに、こんな太平洋側河川の標高1000m未満の場所にもいるんだなあ。
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巨樹かと思いきや、岩柱の上に木が生えているのだった。
兵衛谷に入って最初の二条2mを白濱は水流左を直登、自分は左の岩場を登った後、薄いフミアト沿いにトラバって高巻くが、この高巻きは悪かった。おまけにガレルンゼ沿いに沢床に戻ろうとして滑落、左手首に落石を食らう。このせいで腕時計のバンドが取れてしまう。白濱によると水流沿いは容易だったらしい。
曲滝は今回入渓してから初めての大滝。名前の通り、滝つぼを曲がり角にして川が90度曲がっている。全貌を望むのはなかなか難しい。右岸に明瞭な巻き道がついている。
曲滝を越えてしばらく進むとゴルジュが現れる。最初の3mは左からへつり、その上で右側に渡ると残置が見える。白濱が自分の肩を足がかりに残置ロープをつかみ、自分はそれを使って登る。その残置ロープを使って沢床に戻り、その先は左側をへつって進み、ゴルジュを抜ける。
しばらくゴーロを歩くと左入口に洞穴を持つ大瀞が現れる。この大瀞は、右側を泳いで奥のナメ小滝に取り付き、ナメ小滝は水流右を直登する。その先は倒木が引っかかった明るいゴルジュを左側からへつる。ゴルジュ中に3~4mのナメ滝があり、白濱は左をへつりながら越したが、自分は左を高巻く。巻きは、スラブ状の岩場を立木のある高さまで登り、うすいフミアトをトラバリ、その後ガレルンゼをダブル手がかりで下りる。へつりは白濱によるとホールドが細かく難しいらしい。
二条2mと20m(スクリーン滝)の手前には、コケと湧水のある釜があり、コケの緑の鮮やかさと水の深い青色の対比が美しい。この釜は左の草付きに沿ってフミアトがありそれをたどるが、草には棘がある。白濱によるとミヤマイラクサといって食べられるらしい。二条2mと20m(スクリーン滝)は右巻き。途中岩のトンネルがある。
その後もゴーロ歩きの後にゴルジュが現れるが、容易にへつることができる。そうでない場合でもしっかりとしたフミアトがある。
ゴルジュを抜けると、出口の無い釜を持つ滝が現れる。鈴ヶ沢東俣にあるのと同様、上段の釜が岩によってふさがれ、一見すると出口が無いように見える。水流は岩の下をもぐっているのだろう。しかし出口の無い釜というのはいつ見ても恐怖感を覚える。なんか未知なる力に引きずり込まれそうになる恐怖感である。実際釜の中でどのような水の流れがあるのかは、少し知りたい気もするが。直登する気にはとてもなれず、右岸側を巻く。
出口の無い釜を持つ滝を越すと、間もなく電力用取水堰堤が現れる。地形図を見ると、この堰堤で取水された水は、導水路を通して巖立にある発電所まで行くみたいだ。右岸側を見ると、施設から斜面を登るように道が付いているっぽい。確かめたわけではないが、三間山林道まで続いているのではないだろうか。こんな立派な設備を建設・管理するのに毎回兵衛谷を行き来しているとは考えにくいし。
今日はここで泊まることにする。堰堤の少し下流左岸に、少し高台となったサイト適地がある。先行パーティーによるのか、地面にシダの葉が絨毯のように敷きつめられており、焚き火の跡もあった。夕立が降るかもしれないのでツェルトを張る。結局今山行では一度も雨に降られなかったが。
夕飯後は、白濱は釣りに出かけ、自分は焚き火の準備。沢中2泊という焚き火が重要な山行であるのに、自分は新聞紙とベニヤ(うちわ)を忘れてきてしまった。そのため火付けには苦労した。
7月30日(水)晴れ、朝は快晴
5:55出発-7:25(大釜を持つ多段2m手前・タルミ)7:40-8:25(吹上滝下・タルミ)8:40-9:20(20m二条下・タルミ)9:35-10:20(高巻おわり堰堤型10m上・タルミ)10:35-11:40(龍門滝下・タルミ)11:50-13:20(袴滝上・タルミ)13:40-14:30(材木滝上の6mナメ滝下・タルミ)14:45-15:30左から沢が入る出合(標高1650m付近)▲2
4:40に起床し、沢飯を食べ5:55に出発。取水堰堤を越えると水量はぐっと多くなる。振り出しに戻された気分だ。しばらく歩くとナメとナメ滝が次々と現れるようになる。黒い岩の上を水が走っていく。昨日と打って変わり、谷も開けた感じで明るい。
途中川の上に倒木が架かっているのを見つけた。倒木はコケにびっしり覆われていて、樹木もその上から生えている。言わば川の上に小さな森が形成されている。
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倒木の上の植生
石楠花沢出合の先には大きな釜を持った二条小滝がひかえている。これは左から釜をへつり、滝(落差1m程)に取り付いて乗り越える。へつりはホールドスタンスが細かく難しい(特に小滝を乗っ越すところが)。白濱が苦労しながらも乗っ越すことに成功し、自分は白濱にお助け紐を出してもらい越える。落差はたった1mほどなのだが、越すのにとても苦労した。その上にもう一つ大きな釜を持った滝があるのだが、そちらは少し泳いで右岸に取り付き、小さく巻く。
吹上滝は「猛瀑」と呼ぶのにふさわしく、太い水の柱が空から落ちてきているといった印象。落水により滝壺の水が噴霧状に撒き上げられて、それに陽の光が差し込み美しい。まさにその名の通り吹上滝である。この滝は左岸を巻く。ところどころに明瞭なフミアトがある。
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吹上滝
吹上滝を越えしばらく歩くとやがてゴルジュとなり、左側をへつる。その奥に二条20mが現れる。この滝は上部が二条に分かれており、ゴルジュの奥に傲然とそびえる様は格好いい。この滝から堰堤型10mまで五つの滝をまとめて高巻く。この滝の手前で右から入るガレルンゼを登り、二段目の岩壁の上に出ると尾根状っぽくなる。そこから上層ヒノキ科、下層ササのヤブをトラバリながら進む。ここら辺にはそれとなくフミアトがついているのでそれをたどる。片方がもう一方の岩に覆いかぶさっている下をくぐる(かなり狭い)と沢床が近くに見えるようになり、明瞭となったフミアトをたどり沢床に下りる。そこは10m堰堤型の上であった。
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ここから先もゴーロとナメが続く。途中の小滝で釣り師とカメラマンの2人組と会う。三間山林道から下りてきたとのこと。カメラを持った人は「飛騨の渓流のうち九割くらいは行った」と言っていた。すごい。旧小坂町(現在は合併して下呂市)は御嶽山から放射状に流れる河川に多くの滝がかかっており、日本一滝の多い町であると聞く。その中には火山が造り出す奇瀑・奇景も多く、それに魅せられる人は多いのだろう。
5m柱状節理滝は右巻き。続いて現れる龍門の滝は、滝つぼの上にブリッジが架かっている。どうしてこのようなブリッジができるのだろう?左岸を少し戻り、フミアトをたどるとブリッジの上に出て、右岸側に降りる。滝上はナメとゴルジュが美しい。
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龍門の滝の上の柱状節理
少し歩くと柱状節理の岩壁にかかる袴滝が現れる。事前の調べでは、この谷の中で一番いやらしいと予想していた滝である。左側のガレルンゼを登ると、5mくらいのぼろぼろの岩場がある。ここを自分が空身で登り、後でザイル確保して自分のザックと白濱を上げる。支点作成のためにハーケンを二枚打ったが、あまりうまく入らなかった。この先はうすいフミアトに沿って斜面をトラバるのだが、途中岩場を横切る箇所があり、怖い。そのままフミアトをたどって沢床に下りる。
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袴滝全景
袴滝上もナメが続き美しい。この辺りから周りの樹林はヒノキ科にかわりシラベやコメツガなどの亜高山帯針葉樹の森となる。
材木滝周辺では橙色の温泉成分の析出物が目に付く。材木滝の下では、右岸から濁河温泉からの遊歩道が入る。この遊歩道を登り、途中から遊歩道を外れ右側のフミアトに入る。途中温泉の源泉がある。水が生温かい。温泉の周りにはコケがびっしり生えており、さながら緑の絨毯のようである。コケは温泉成分を生長の糧としているのだろうか。
フミアトから別れ沢床に下り、材木滝上の7m6mナメ滝を見ながらタルム。7m6mナメ滝の直登は難しそう。自分たちはフミアトに戻り、ササが刈り払われたフミアトを辿り、巻く。
その上もいくつかナメ小滝とゴーロが続くが、疲れきっている自分と白濱はなんでもないところでポテポテ転ぶ。左から沢が入る出合付近(標高1650m辺り)左岸側にサイト適地を見つけ、そこにツェルトを張る。
夕飯はCCG。乾燥ニンジンを入れすぎ激甘のCCGができた。CCGだけでは物足りなかったため、各自ジフィーズを作って食す。焚き火にあたり、日が暮れたら就寝。
7月31日(木)午前中晴れ、稜線に近くなるとガス
5:35出発-6:50(タルミ)7:05-7:45(パノラマ滝下・タルミ)8:00-8:55(百間滝下)9:10-9:55(15m直瀑上・タルミ)10:10-10:55(連瀑ゴルジュ入口・タルミ)11:05-12:00(30m美瀑下・タルミ)12:10-13:30(高巻き終わり5mCS上・タルミ)13:45-14:10(最高所滝・水汲み)14:30-15:10賽ノ河原避難小屋▲3
標高1650mあたりになると、やはり夜は肌寒い。ラーメン餅を食べ、出発。最初から淵が現れる。この淵は腰まで浸かって左岸側にわたり、へつる。その後は、右岸側についた明瞭な巻き道が標高1710m付近の二俣手前まで続いており、それを使う。
釜を持った4m5m滝は、下段4mは右巻きその落ち口を横切り左側の岩に取り付いて上段5mを巻く。取り付きには新しいフィックスロープが架かっている。
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下段4m
右岸の岩壁から湧水が滴り落ちている地点の少し先に、4m3mナメ滝があり右巻き。この辺りでは、滝の釜の色は温泉成分のせいかわずかに白みがかった青色である。下流部の澄み切った釜の色とは印象がかなり違う。
しばらく歩くとシン谷と尺ナンゾ谷との出合に出る。両谷とも滝を架けて出合っている。自分たちは左側のシン谷を行く。シン谷最初の滝であるパノラマ滝は大きく威圧的ではあるが、明るい滝で、今までの滝とはずいぶん印象が違う。左側のルンゼに取り付き右岸に付いた巻き道を使う。巻き道は明瞭で、要所には赤布も付いているが、トラバリでヒヤッとする箇所もある。その上の三段20mナメ滝は直登可。その後百間滝まで滝がいくつかあるが、大体直登可能で、そうでない場合でも簡単に巻ける。
百間滝は左岸側のグチュグチュした沢状地形から取り付き、高巻く。フミアトは明瞭だが、途中ガレルンゼをトラバる箇所があり、そこは注意が必要。次の15m直瀑は左側のガレを岩壁まで登り、その下端をトラバり、ヤブをつかみながら落ち口に下りる。この辺りは草付きになっているのだが、草には棘があり手袋をしないと手がぼろぼろになるだろう。
これを越えると谷は開け、眼下に眺望が開ける。今山行中初めて見る眺望だ。稜線の方には雲がかかっていたが。谷はゴーロとなり、やがて水は伏流する。ゴーロ歩きにうんざりした頃に連瀑をもつゴルジュの入口へと着く。最初の10m滝には水がわずかしか流れていない。このゴルジュは右から巻く。明瞭なフミアトを追い一旦小尾根上に出て、ヤブをつかみながら沢床に戻る。ヤブ中で白い羽虫の大集団に襲撃されほうほうの体で沢床に下りた。
火山噴出物であると思われる岩の涸れゴーロをよたよた進んでいくと、突如水流が白い線を引いたような美瀑30mが現れる。滝下には雪渓が残っている。右側から高巻く。
やがて植生はハイマツとダケカンバの潅木となり、谷は上部を岩壁に囲まれ、荒涼とした雰囲気となる。いかにも3000m級の火山のツメといった感じである。12m滝~5mCSまでの滝場は右を高巻く。12m滝下の植生から取り付き、植生に沿って岩壁まで登り、岩壁の下端に沿って進むとガレルンゼへと出る。このガレルンゼは5mCS下に下りているが、5mCSは直登不可なので巻かなければならない。ガレルンゼを横切り、対岸の岩場をトラバって越すと別のガレルンゼが現れ、それを伝って下りる。岩場のトラバリは見た目ほど怖くないが、足を滑らせると下まで落ちていくので慎重さが必要である。
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高巻き終了地点より来し方を望む。奥の峰は継母岳
更にゴーロを歩くと日本最高所の滝に出る。この滝はコケに覆われた箇所から水が糸のように滴り落ちている。ここで一人4リットルずつ水を汲む。この滝を左のガレから越すと谷は様相を一変させ、穏やかとなる。空は曇っていたが、周りには高山植物の花が咲き誇る中をせせらぎが流れ、美しい。緊張からの解放感に浸りながらゆっくり進む。ゆっくり進むのは風景を味わうためと言いたいところだが、実際は水4kgを歩荷することになり急に荷物が重く感じられるようになったことと、今までの疲れが相まって体が動かなかっただけである。賽ノ河原から右手に二ノ池新館の建物が、左手に賽ノ河原避難小屋の建物が見えるが、今回は賽ノ河原避難小屋で泊まる。賽ノ河原避難小屋は新しく綺麗な建物でなかなか快適だった。トイレも併設されている。翌朝はガスっていなかったら剣ヶ峰まで行くことにする。
8月1日(水)晴れ
4:45出発-5:30(剣ヶ峰・タルミ)5:40-6:15(賽ノ河原避難小屋・デポ回収)6:25-7:25(濁河コース八合目・タルミ)7:35-8:50濁河温泉
白濱が夜中にトイレに行く際に空を見上げると、満天の星空で、天の川と流れ星が見えたらしい。しかし小屋の中にいると風の音がやたらうるさく、嵐の中にいるような錯覚を覚える。4:00に起床し、お茶漬けを食べる。外に出るとガスは無く、風も全然強くない。剣ヶ峰まで往復することにする。
まだ明けきらぬ空の下、北方には乗鞍と槍ヶ岳が、東方には中ア連山が浮かんでいる。二ノ池辺りで日の出。二ノ池から一ノ池の西側を稜線沿いに回りこむコースを取ったが、かなり遠回りに感じられたので、一ノ池を突っ切って進む。一ノ池は、水は張っていないが、雪渓からの雪融け水のため地面がぬかるんでいる。剣ヶ峰では硫黄臭く、王滝方面には噴気孔からの噴煙が見えた。
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二ノ池新館付近より北方を望むと乗鞍・槍ヶ岳が
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剣ヶ峰より王滝方面を望む
帰りは一ノ池の東側を回り込む正規のルートで帰る。賽ノ河原避難小屋でデポを回収し、小坂口登山道を下る。八合目から森林限界下。王滝口の登山道は、出発地点の標高が高いため亜高山帯針葉樹の森は少ししか通らないが、こっちのルートでは充分味わえる。登山道はよく整備されており、谷を渡るところには吊橋が架かっている。霊神碑を過ぎると神社が現れ、その前を過ぎて橋を渡ると濁河温泉の温泉街へと出る。バス停へはここから更に距離にして300mほど下る。バス停のそばに市営露天風呂あり。お湯はぬるいがその分ゆったりと浸かれる。ただ岩の上は滑りやすいので注意。入湯料500円。
入浴後10:45発の木曽福島駅行きのバスに乗る。運賃は2260円。木曽福島駅まで1時間30分ほどかかる。木曽福島駅前の食事処「かわい」で打ち上げ。その後自分は松本の弟の家へ居候しに行き、白濱はその日の夜7:00から本郷で開かれる夏合宿の壮行会に参加するべく鈍行で東京に向かったのであった。
◯まとめ
下流部の鬱蒼とした森林の中の静かな瀞、中流部の明るくダイナミックなナメと大滝、上流部の荒涼とした景観から一変する高山植物のお花畑と、標高に応じ景観が大きく移り変わる。火山が造りだす奇瀑・奇景がそれに彩りを加える。標高700mから2900mまで距離15kmにわたる大渓谷を遡る真髄がそこにあると思う。
長大な渓であることに加え、沢中3日かかるため荷物が重いことから、体力的には相当しんどかった。20mを越えるような大滝がいくつもあるが、明瞭なフミアトがついており、高度感のある直登を強いられる箇所はない。しかし高巻きの途中のトラバリでは注意を要する箇所が多々ある。また下流部の瀞で泳ぐ際、一見流れがないように見えても実際にはなかなか進まず焦ることもある。そのような場合激しく体力を消耗する。特に下流部~中流部の通過は水量による難易の差が激しいだろう。今回はかなり水量が少ない方だったと思われる。時期としては、気温が高い八月がベスト。気温が低いと、泳ぎが連続する部分で体力・精神力の両面でリカバーが遅れる。
白濱に言わせると、この谷は「部山行として出せるギリギリのレベル」。自分も異議はない。しかし上述したような景観の変化は、一度見ておくと一生心に残ると思われるほど美しく、不思議さに富んでいる。万全を期して臨む価値は十分あると思う。
◎奥飛騨高原川水系沢上谷記録
◯メンバー 長谷川、弟(信州大1年)
◯入山日: 2008年6月1日
◯1/25000地形図 「旗鉾」
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遡行図(クリックすると拡大)
5月31日(土)雨
自分が早朝東京を発ち、朝10時過ぎに松本に着く。そのまま松本市内の弟の下宿へ。午後3時過ぎに市内を散策がてら、駅前にレンタカーを借りに行く。その足でラーメン屋に行き、浅間温泉の銭湯に浸かる。この日はフワフワ布団の上で早々に寝る。
6月1日(日)晴れ
7:30入渓―7:50五郎七郎滝のある沢との分岐―8:15五郎七郎滝―(引き返し本流へ)―8:50休憩9:00―9:10岩洞滝のある沢との分岐―9:30岩洞滝(引き返す)―10:15大滝下―11:10高巻終わり、沢床へ戻る―(ナメ歩き、途中休憩約10分)―12:00遡行終了―13:00入渓点
朝3時半に起床し、弟作の肉ジャガ、味噌汁、お浸しの朝食。弟の家事の腕が上がっていて驚いた。実家では何にもやらん奴だったのに。
4:50出発。早朝の松本市内を抜け、国道158号をひた走り、1時間程度で安房トンネルに。安房トンネルを抜けるとすぐに国道471号に入りしばらく走った後に、県道89号に入る。県道89号は狭路で、すれ違いには気を使う。6:30頃入渓点着。1時間ほどザイルワークの練習をして入渓。最初のうちはゴーロが主でナメが時々現れる程度だが、昨日まで連日雨が続き水量が豊富なので、それに新緑が映えて景観的には美しい。
入渓してからすぐに五郎七郎滝のある沢との出合に着く。五郎七郎滝のある沢は滝となって出合っており、その滝の左側にはフミアトが見て取れる。今回はそこを通り、五郎七郎滝の見物に行く。
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五郎七郎滝のある沢出合の滝
五郎七郎滝までは以下の写真のようなナメ小滝が続く。ナメはフリクションが比較的よく効くが、弟は初めての沢登りなので少々気を使う(特に下降時)。
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五郎七郎滝のある沢中のナメ小滝
五郎七郎滝のすぐ手前に10m程度のナメ滝があり水流すぐ右の小ルンゼか右巻きの明瞭なフミアトを辿る。これを越えると目の前に大きく優美なナメを持つ五郎七郎滝が現れる。名前に反して女性的な美しいナメ滝である。
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五郎七郎滝
ここで引き返し沢上谷本流に戻る。出合いの滝では弟の練習も兼ねて懸垂下降する。ここから先も以下の写真のような赤いナメやナメ小滝が次々現れ、見る者を飽きさせない。これらは乗鞍の火山活動によるものだろうか?途中弟が釜にドボンした。胸まで浸かりながらも、手にしたカメラを濡らさないように必死に手を挙げている様は笑えたが、機械に対する執着はさすがだと思った。
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赤いナメ
しばらく進むと岩洞滝のある沢との出合いに出る。岩洞滝のある沢は、出合い付近ではこの先に滝があるのかと疑わしくなるなるほど貧弱な渓相だが、進むにつれナメとゴーロが交互に現れる。特に危険な箇所はない。
岩洞滝はゴーロの先にいきなり現れる。直立した岩壁に三方を囲まれた空間の奥に轟然とそびえる滝である。滝の直下まで行くと、落水が引き起こすのか冷たい風がビュービュー吹いている。先ほどの五郎七郎滝とは打って変わり、男性的な滝である。
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岩洞滝
再び引き返し本流に戻る。大岩とスラブに挟まれた流れを、両手両足を突っ張って越えると蓑谷大滝が現れる。蓑谷大滝はナメ直瀑で見る者を圧倒する。
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蓑谷大滝
この滝は右側(左岸側)を高巻く。フミアトを辿って急斜面を登ると直立した岩壁にぶち当たる。フミアトは岩壁の下部に沿ってついているようだが、自分たちは適当なところでよじ登り、岩壁の上に出た。岩壁の上は尾根状となっていてしっかりとした杣道がついており、すぐ下を小沢が流れている。最初その小沢を下り本流に戻ろうかと考えたが、段々斜度がきつくなっているので弟には危険と判断した。そこで小沢を横切り、その先の小尾根を越え、藪斜面を下ると二俣滝の上流側に出た。後で他の記録を読んだところ、小沢を下ると蓑谷大滝の落ち口に出るようである。結果的に二俣滝を見ずに通り過ぎてしまったことは、少々残念である。
沢床に戻った地点あたりはゴーロっぽかったが、すぐにナメが始まりそれが延々と続く。ここから先は滝などもなく、明るい日差しと新緑のなか心地よいナメ歩きを堪能する。
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延々と続くナメ
小一時間ナメを歩き続けると、やがて両岸にスギの人工林が現れ二俣に出る。左俣右俣両方に橋が架かっており、ここで遡行終了とする。
遡行終了後は県道を1時間ほど歩いて入渓点まで戻る。道すがら弟に山菜を教えてもらう。すっかり信州人になってしまっている。途中視界が開け、沢上谷を挟んだ対岸に岩洞滝と五郎七郎滝の全貌が望めた。岩洞滝周辺の景観は、木曽御嶽山の岐阜県側にある巖立峡に似ている。岩洞滝は乗鞍の溶岩があそこで止まったことによって出来たのだろうか。
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岩洞滝遠景
入渓点に戻り、着替えを済ませ、車に乗り込みトヤ峠を越え丹生川方面に向かう。
自分の強い希望により3億円金塊強盗事件のあった飛騨大鍾乳洞を見学する。併設されている大橋コレクション館には、真珠で出来た名古屋城やイッカクの牙やトラの一物の標本などが展示してあり、内容に統一感がなくお世辞にも趣味がいいとは言えないが、自分は結構楽しんでいた。その後平湯温泉に浸かり、松本駅前に17:30過ぎに到着した。
この日は弟の家に泊まり、翌日自分は授業の実習集合地である木曽福島へ向かった。
◯まとめ
・ 初心者を連れて行くのに最適な谷だと思う。蓑谷大滝の巻きでは少々注意が必要だが。
・ 高原川を挟んで双六谷と相対する位置にある。双六谷へ行く際に、この谷を前菜もしくはデザートとして組み合わせて遡行するのもありかも。
・ 谷の上に集落があることもあり、沢の水は飲まない方がよいと思う。

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